ヤンバルクイナとの遭遇
 昨夜は夜中に隣の部屋の子供の激しい夜鳴きで目が覚めてしまった。やっぱり壁は薄いようだ。
 結局そのまま眠れなくなってしまい、寝不足のままヤンバル最初の朝を迎えた。

 部屋を出ると、裏の斜面からはアカヒゲのさえずりが聞こえてきた。これは期待が持てそうだ。
 去年の夏休みにここに来たとれたさんの話だと、アカヒゲはもう撮りたくなくなるほどウジャウジャいるらしい。

 空気は冷たくて、半袖Tシャツの上にウィンブレを着でちょうど良いくらいだ。下は行き帰りに飛行機の中でしか履かないだろうと思っていた長ズボンを履いた。 さあ、それじゃヤンバル固有種目指して出撃しよう。

 まだ薄暗い中車を走らせていくと、よさそげな林道があったので入ってみる。

 アカヒゲの声は確かにそこらじゅうから聞こえるものの、姿は中々見せてくれない。時折路肩で餌をとっているようだが、薄暗い中だと赤色が良く見えないし、こちらに気付くなり飛んでしまう。
 アカヒゲは楽勝だと思っていたのに、はたしてこんなんで撮影できるんだろうか・・・

 そんなことを考えながら走っていると目の前に黒っぽい鳥が飛び出し、道路を横切って反対側の藪に駆け込んでいった。あれはもしかしてヤンバルクイナ?地面をすごいスピードで走っていたからその可能性は高い。

 人が歩くぐらいのスピードでゆっくり車を走らせていくと、たまにアカヒゲが道路を横切るが、そのまま藪の奥に飛び込んでしまうためまともに姿を見ることは出来ない。かなり厳しい状況だ。
アカショウビンはまだ時期が早いのか、声も聞こえない。

 林道をかなり登ったあたりで、はるか先の路面を歩く鳥を発見。嘴が赤い、ヤンバルクイナだ!
 しかしまだ100mは離れているというのに、そいつはこちらに気が付き一目散に藪の中に駆け込んでしまった。なんて警戒心が強いんだろう。
 今鳥が駆け込んだあたりまで車を進ませ、どんな所にいたのか見てみようと覗き込むと、なんとまだヤンバルクイナはそこにいた!一瞬目が合ったヤンバルクイナは斜面の下のほうへすごい勢いで逃げて行き、あとには藪の中を走るガサゴソという音だけが残った。
 初めて間近で見たヤンバルクイナは嘴と足の赤が鮮やかで、眉班と眼過線やお腹のしましまのコントラストがすごくクッキリしていてとても綺麗な鳥だった。撮りたかったなあ。もうちょっと慎重に進んでいればシャッターを切れたかもしれないのに・・・くやしい。

 気を取り直してさっきよりさらにゆっくり慎重に車を進めていくと、路側帯にうごめく赤い鳥発見。やっとアカヒゲと対面する事が出来た。
車から降りて三脚にロクヨンをセットして、道の端に積った落ち葉をガサゴソひっくり返しているアカヒゲをファインダーに入れる。どうやら巣立ちビナのようだ。こっちを気にする事もなく、甲高い声の地鳴きをしながらちょっとづつ移動して行く。

 しかしアスファルトの上じゃどうにも画にならない、もうちょっと良い所に止ってくれれば良いんだけど。それにほんとに撮りたいのはパパなんだよねえ。

 というわけで、これからの出会いに期待してさらに先に進んだのだが、林道はどんどん高度を上げて行き、とうとう尾根筋に出てしまったようで周りの木々もまばらになってきた。カラスとヒヨドリの声がうるさいが、他の鳥はあまり期待できそうもないので来た道を引き返す。

曲がりくねった道を、アクセルを踏まずに静かに下りていくと、あるコーナーを曲がった所をヤンバルクイナが歩いている!こっちのことはあまり気にしていないようだ。慌ててひざに乗せていたサンヨンのついた40Dを構えてシャッターを切るが、まだ日は登っておらず、暗くてブレブレ。でも一応証拠写真はゲット!

ヤンバルクイナが歩いているあたりは高さ1mほどの壁になっているので、もうちょっと近寄って撮れるかも、と思い車を移動させたら、ヤンバルクイナはその1mの壁を垂直飛びの要領で一気にジャンプして乗り越え、藪の向こうに姿を消してしまった。すごいジャンプ力だなあ・・・

さっきアカヒゲのヒナを撮ったあたりに差し掛かると、「ホイホイホイ グェ」と言う声が聞こえてきた。サンコウチョウだ。
再び車を降り三脚にレンズをセットして森の中に意識を集中すると、枝から枝へ渡り歩く尾っぽの長い鳥影が目に入った。枝と葉っぱカブリでなかなか抜けた所に出てきてくれないが、ずっと目で追っているうちに多少見通しの効くところに止ってくたので、何とか1枚撮影できた。この時期、まだ頭はハゲてはいないみたいだ。アイリングも美しい・・・

 このあたりは鳥の気配が濃厚なのでしばらく腰をすえて粘ってみる事にしよう。
通行の邪魔にならないように車を路肩に寄せて駐車し、本格的に鳥撮り開始だ。

 さっきのアカヒゲのヒナがいたあたりまで歩いてゆくと、あのヒナはまだそこで葉っぱをひっくり返していた。
良く見ると同じくらいの幼鳥が他にも数羽、道路わきの斜面の藪の中を飛び回っていて、たまに道路にまで出てきていた。中には顔が黒くなりかかったお兄ちゃんも混じっている。

 ただ目の前にいるこいつはずば抜けて警戒心が薄いようで、こっちのことなんかほんとに気にせず目の前数メートルの所までやってくる。ちょっと将来が心配だなあ・・・

 そこに、やはりヒナが心配らしいパパヒゲ登場!やっと会えたよ〜
 彼は道路で餌をとるフリをしつつ、横目でこっちを気にしてるようだ。

 パパはこちらと一定の距離を保ちながら、ヒナとは逆のほうに移動していく。雛から注意を引き離す作戦みたいだが、もちろんパパのほうが魅力的だから、彼の思惑通りに釣られてあげる。ヒナはこの隙に藪の中に移動しておくように!

 この引き離し作戦のおかげで一応パパを撮る事は出来たけれど、やっぱりいるのはアスファルトの上ばかりだ。さらに背景には微妙に縁石が入ったりして画にならない事この上ない。もうちょっとマシな所に止ってくれないもんだろうか。

そんなパパヒゲに苦戦していると、森の中から「キョッ キョッ」と言う声とともに、木を叩く音が聞こえてきた。これはもしかしてノグチさんかも!

 声のするほうに目を凝らすと、結構大きめの鳥が枝に止った。葉っぱカブリでAFなんて全然効かないので、泣きながらフォーカスリングをまわすと、ファインダーの中にノグチさんの姿が浮かび上がった!

 ノグチさんもヤンバルクイナに続きはじめて見る鳥だ。一連写したら他の木に飛び移ってしまったようで見失ったが、一応証拠写真ゲット。

まだそこらあたりで木を叩く音は聞こえていたが、結局その後姿を見ることはなかった。

 そして再びアカヒゲ父さんに注意を戻した時には藪の中で「ピギャピギャピギャ」と囀りモードに入ってしまっていて、結局その姿を見つけることは出来なかった。それにしてもいったいどこで鳴いてるんだろう?あの赤が目に入ってこないのは不思議でならない。

 しかし捨てる神あれば拾う神あり、アカヒゲの囀りに反応して、再びサンコウチョウが登場。
 しばらく「グェグェ」とやりながら藪のなかでアカヒゲにプレッシャーをかけていたようだが、そのうち満足したのかちょっとはなれた松の木に止ってホイホイやりだした。
 これはシャッターチャンス!手前に葉っぱ被りアリだが一応全身ショットを撮る事が出来た。

 サンコウチョウがいなくなったのを機にそろそろ宿に戻ることにする。もう9時を過ぎてるからねえ。
 パパヒゲの枝どまりはまた明日の課題だ。

 こんな真昼間じゃもうヤンバルクイナも無理だろうと普通に車を走らせて行くと、はるか前方の路肩にヤンバルクイナっぽい黒い影が見えたので急停車。とりあえずフロントウィンドウ越しにロクヨンで覗くと、ヤンパルクイナに見えたのはただの黒い木の固まりだった。な〜んだ・・・・とがっかりしたのもつかの間、ファインダーの中に横からヤンバルクイナが入ってきたじゃないか!

 半分パニクりながらロクヨンを窓から出し、サイドミラーの上に三脚座を乗せて、片手でカメラをグリップしたままそのままそーっと車を前進させると、ヤンバルクイナはしばらくそのまま道路のほうに歩いてきた。

 この時点でレンズが落ちるとかミラーが傷つくとか、そんな事は全然考えていかったが、後から考えるとかなり危険な体勢だったかも(汗)なんかうちのロクヨンがボロボロなのもうなづけるよなあ・・・

 さらに車を進めると、こっちが気になったようで立ち止まる。これが限界距離らしいので、そこで車を止めて撮影を続けていると、ヤンバルクイナはしばらくじっと気配をうかがったあと、向きを変え藪の中へゆっくりと消えていった。
こうして今回の遠征を通して一番のヤンバルクイナとの遭遇は終わったのであった。 

 それにしても最後の最後でついていた。まさかヤンバルクイナをこんなにしっかりその姿を見れると思っていなかったので大満足だ。さあ、はやく宿に帰ってひーことたいきに自慢しなきゃ!(反応薄そうだけど・・・^^;)

 

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