1月10日 プリサンはほんとに秘境だった

 
 初めてのスラウェシは、街中でも「ここはスラウェシ」と思うだけでなんかそこら中に鳥がいそうな気がする。

 メインストリートを曲がると道は片道一車線になる。周りの家並みもまばらになり、代わりにパーム椰子の林が目立つようになってきた。車に弱いたいきは早くも防御スイッチが働き爆睡モードに入った。
 道路は他の車もほとんどいなくて快適だ。これなら思っていたより早くプリサンに着けるんじゃないかな?

 

 なんて思っていたら、いきなり渋滞が始まった。なんだなんだ?
目の前にはダンプが2台走っていて、その後ろをパトカーがサイレンを鳴らしついていっている。なんだか大騒ぎだ。ダンプも避ければいいのにと思っていたが、その気配はない。
 運転しているフランツさんにどうしたんだろうと聞くと、どうやらお葬式の行列らしい。ダンプ2台に乗っているのはお葬式
のものだと事を言っていたが、もしかして棺おけも入ってるんだろうか。ダンプの霊柩車ってのもスラウェシだったらあってもおかしくなさそうな気がする。

 パトカーに乗っている警官はサイレンを鳴らしながら窓から手を出して後ろからやってくるバイクがすり抜けようとするのを阻止している。横に十分な空きスペースがあるのだが、やっぱり亡くなった方に敬意を表してのことなんだろうか。
 フランツさんにそこのところを聞くと、亡くなったのが警察のボスだからパトカーもこんなムキになってるらしい。

 お葬式の行列は次の村でわき道に反れて行っててくれたので、渋滞は一気に解消した。ほっと一息だ。
 このあとは車を見かけることもほとんどなくなり、時速100km位で飛ばすフランツさん。

 道中時々現れる小さな村を見て思うのは、どこも民家は今にも崩れそうなのに、教会だけはすごく立派だと言う事。
スラウェシ北部は大多数がキリスト教徒だそうで、かなり信仰が篤いらしい。

 そしてスラウェシの夕日が丘の向こうに沈み、暫く原野ばかりが続いた後、再び村が現れた。フランツさんに「ここがプリサン?」と聞くと「ここはプリサンの1つ手前の村で、僕のうちがあるんだ」と教えてくれた。行きかう人々はみんなフランツさんの知り合いのようで、すれ違うと必ず手を振って声を掛けてゆく。
 村の中は人は言うに及ばずブタの家族やニワトリの親子が歩き回っているので徐行しないと危なくて仕方ない。

 フランツさんが「あそこが僕の家だよ」と教えてくれたのはピンクの外壁の立派な建物だった。家の裏には大きなパラポラアンテナまである。「あれは衛星放送用?」と聞くと、「そう、色んな番組が見れるよ。うちの子は日本のアニメが大好きなんだ。ドラゴンボールとか」と言っていた。たいきと一緒だねえ。

 そのあと10分ほどでやっとプリサン村に到着。しっかり2時間以上かかったが、なんとか暗くなる前に着く事ができた。
 車はここで降りて後は歩かなくちゃいけない。なんか水曜スペシャルの川口浩探検隊みたいだ。
とはいっても先に続く道はコンクリの舗装路。これなら車でもいけるんじゃない?こっから歩くっていうのはやっぱ探検気分を盛り上げるイベントみたいなもんじゃないの?

 車が止まると村人が集まってきてスーツケースを慣れた様子で担いで行ってくれた。あんな重たいの一人で担いで大丈夫なんだろうか。30kgはあると思うんだけど・・・
 僕のカメラバックは卵運搬係のお兄さんが担いでくれることになった。転ばないでね〜
 ついでにたいきの手もつないでくれて、暮れかけた道を歩きはじめた。

 しかしコンクリ舗装だったのはほんの数十メートルで、そこから先は未舗装の細い道になる。これじゃほんとに車は入れないな・・・木々が上に覆い被さり、暗くなってきた空の光をさらにさえぎって、道はかなり薄暗い。

 横には川が流れていて、カエルの鳴き声が聞こえてくる。
 道は先へ進むほど細く傾斜もきつくなってゆき、まさにジャングルの中の道と化してきた。これじゃほんとに秘境じゃないか・・・

 最後はヘッドライトを灯さなければ前が見えないくらい暗くなり、ビビったたいきは歩くスピードがさらに遅くなる。
 もう一組の欧米家族は先に行ってしまったので、一緒に付いていてくれたカトリンもヘッドライトをこちらに渡し「レストランで待っているから」といって先に行ってしまった。真っ暗なのにライトなしで大丈夫かな。

 ビビリながらも頑張って進むたいきと一緒に歩き、最後の橋を渡ると波の音が聞こえてきた。海はもうすぐそこだ。

 さらに歩く事数分、やっとプリサンのビーチに到着。海の上には満月が輝いていた。

 プリサンリゾートはビーチ沿いに数件のコテージが建っていて、奥に大き目のレストラン棟が見える。道沿いの植え込みも綺麗に整えられていて、パッと見は中々良さそうな感じのところだ。

 とりあえずレストラン棟に行ってみるとカトリンが待っていて、ここでのいろいろな事を説明してくれた。
 特筆すべきは電気。ここでは自家発電で、電気が使えるのは午後6時から10時までの1日4時間のみだそうだ。なかなか手ごわい・・・「まずはシャワーでも浴びてきて。晩御飯は7時半からよ」と言って部屋に案内してくれた。

 今回うちらが泊まるのは、レストランから一番離れているビーチフロントの部屋だ。
 部屋の中は蚊帳つきのシングルとダブルのベッドがあるだけの極めてシンプルなつくりで、照明は天井からつるされた白熱灯だけ。でも壁が木製なのでちょっと落ち着く。

 荷物を軽く片付けて熱帯装備に着替えるが、ひーことたいきのクロックスが何処にもない。
そういえば荷造りをした時、ビニール袋にまとめておいたのをしまった記憶がないなあ。どうやら家に忘れてきてしまったようだ。二人とも申し訳ない! ちなみに僕のクロックスだけはなぜかスーツケースの外ポケットに入っていた。

 まあ忘れてしまったものはしょうがないのでシャワーでも浴びようか、とバスルームに入るとシャワーなんて何処にもない。あるのは雨水らしきちょっと濁った水がためられた風呂桶と便器、それに手桶だけ。
 認めたくはないが、この状況はやはり風呂桶の水を柄杓で被るインドネシアスタイルの水浴び、いわゆる「マンディースタイル」ってやつなんだろう・・・当然トイレも手桶に汲んだ水で流すんだよな。モラコットの悪夢がよみがえる。

 ためしに手桶に水を汲んで頭から被ってみるが冷たすぎ〜。こんなの被ったら心臓麻痺を起こしそうだ。
当然シャンプーもなく、あるのはなぜかイチゴ風味の石鹸一個だけ・・・試しに水をつけてこすってみるが全然泡立たない。まあキャンプ行ったらお風呂に入らないこともあるし2.3日頭洗わなくても死にはしないか・・・

 とりあえず頭をちょっと湿らせただけで風呂を出ると、もう晩御飯の時間だ。みんなでレストランに向かった。

 レストランでは既に他のゲストがビールを飲みながら寛いでいた。今滞在しているのは僕らと一緒に来た家族の他に、子連れジジババ連れの大家族とラテン系胸毛ぼさぼさ&セクシーランバダカップルの計4家族のようだ。

 カトリンがやってきて「シャワー浴びた?」と聞くので「マンディースタイルでね」と言ったら苦笑していた。「でも紙はトイレに流していいからね」とのこと。それだけでもちょっとはありがたい。中々わかってるねえって感じだ。モラコットは拭いた紙をゴミ箱に捨てなきゃならなかったからなあ・・・

 さあ、それじゃまずはビールでも頼もうか。ここは当然ビンタンラージ(各1)でいくしかないでしょ。
 ジョッキと一緒に運ばれてきたビールはあまり冷えていなかったけど、まあそれほどぬるくもないからまあよしとしよう。
それにしてもやっぱり南の島で飲むビールはたりませんなあ。

 続いて晩ご飯タイムが始まった、果たしてどんなものが出てくるんだろう。カトリンさんもうちらの隣のテーブルに座り、ビンタンをジョッキでグイグイやり始めた。ここではオーナーもみんなと一緒に同じものを食べるようだ。

 まずでてきたのがレモングラスがたっぷり入ったスープ。それほど辛くないがエスニック風味満点で良いお味。

 続いて1家族に一つ、ボウルに入った山盛りご飯が運ばれてきた。おひつ代わりだね。それと2杯目のビンタンも。
 次に運ばれてきたのは今回のおかずの白菜の炒め物、ピーナッツと野菜とココナッツの皮を炒めたもの、そして炭火焼サテの3品。自家製サンバルらしきものも付いてきた。

 どれも観光地のインドネシア料理屋では食べられないような素朴な味でとっても美味しい。きっと地元の人もこういうのを食べてるんだろうなあ。

 食事ひとしきり終えてから明日の予定を相談する。午後からはみんなでタンココに行くことに決定したが、朝はどうする?と聞くと僕一人で鳥撮りに行かせてもらえる事になった。やった〜!

 早速隣のカトリンさんに、明日の朝タンココへバードウォッチングに行きたい旨をお願いすると、僕一人の場合スピードボートを出すと割高になってしまうため、漁師さんのアウトリガーカヌーを手配しましょうということになった。
 ガイドはくれぐれもバードウォッチングのスペシャリストを手配してくれるよう頼んでおく。それじゃあとで母屋の方に確認に来て、と言う事で話はまとまった。ガイド料はボート代を含めて45ユーロ。

 明日のスケジュール決定を祝してビンタンをもう1本とって乾杯。デザートがバナナってのがまた素朴だ。

 

 お腹もいっぱいになったので、レストランを出て砂浜を散歩してみたが、空にはちょっと雲が広がってきた。ポツポツ雨も降って来たみたいだから部屋に戻ろうかね。

 
 

 部屋に戻ってしばらくテラスで一休みしていたが、そろそろカトリンの所に行ったほうがいいかな。
レストラン棟を抜け母屋の方へいくとカトリンがいたので、手配ができたか聞くとOKだという。
 朝5時半にビーチに出て右のほうに歩いて行くとボートが待っているそうだ。
 ロングテールボートってカメラが濡れたりしないかなあ?と言うと、それじゃちょっと待っていて、と言って倉庫に入り、ブルーシートを持ってきて、「これでカメラを巻いておけばOKでしょ。」と貸してくれた。良い人だ。
 ブルーシートの袋には、なぜか「ダイソー」のマークが・・・こんなところで日本の100円グッズに会うとは思わなかったよ。一体どうやってここまで来たんだろう?

 これで心配事もすべて解決。ついでにビンタンを2本もらって部屋に帰り、たいきとPSPをやりながらビールを飲んでいるうちにウトウトしてきた。今日は移動も多かったし疲れたからなあ。まだ電気がついていたから10時前だろうけど、明日も早いから、発電機が止まる前に電気を消して寝てしまおう。

 

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