黒い龍

  ピックアップトラックは岩山の麓のお寺にたどり着いたが、うちらの目的地はここではないらしい。
 お寺の前で右に曲がると岩山の周囲を回りこむように進んでいく。

 すると畑の真ん中に何台もの車が止っているのがみえてきた。その周りにはコウモリ観察が目的と思われる、スコープを担いだガイドとお客さんらしき人々が佇んでいる。 

 僕らの車もその中に入れてもらい、荷台から下りてカメラをセット。どうやらコウモリが飛び立つのには間に合ったようだ。

 しばらくして、双眼鏡を覗いていたナンさんが岩山の一点を指差して声を上げた。最初は何のことかわからなかったのだが、よく見ると山の中腹にある洞窟の周りに黒い霧のようなものがかかっている。600mmのレンズを通して覗いてみると、それはすごい数のコウモリだ。

 コウモリの動きを見たナンさんは「場所を移動するからすぐに車に乗って!」という。ポジションが良くないのかな・・・
 でも移動途中にコウモリが全部飛び立ってしまったらどうすんだろ・・・と少々心配になりつつ車に乗り込み、大急ぎで移動を開始、そして数分走った畑の中で再び車を止めた。

 車から降り洞窟を振り返ると、洞窟付近に留まっていたコウモリたちが、夕方の空に飛び立ちはじめていた。黒い帯が洞窟から空に向かって伸びてゆく。
やがて黒い帯は地平線の彼方までつながり、上空には一本の黒い筋ができた。本当に黒い龍みたいだ。すごい・・・

 コウモリの帯は少しづつ形を変え、コースや高度を変えながらも途切れることなく続く。時には僕らのほんの数十メートルほどの真上を通過することもあり、そんなときは「パラララララ・・・・」という何千というコウモリの羽音、そして「キーキー」という鳴き声も聞こえてくる。

 テレビの中でしか見たことのないような光景を目の前にしてすっかり圧倒されていたひーことたいきだったが、いつまでも続く黒い帯を前にしてだんだん余裕が出てきたのでコウモリと一緒に記念撮影。

 いつの間にか周りには最初のポイントにいた人たちが移動してきていた。やっぱりここがベストポジションだったようだ。ナンさんもやるときはやるね(^^)

 それにしてもいったい何匹のコウモリがあの洞窟にいるんだろう。最初にその姿を見てからもう15分ほど経つというのに、その勢いは一向に衰えず、たなびく煙のように上空で揺れ続けていた。

 群れにロクヨンを向けアップで狙うと、コウモリ一匹一匹の姿も良く見える。
視力が発達していて可愛い気のあるオオコウモリ系ではなく、イカルス星人っぽい超音波派の種類のようだ。

 これだけの数のコウモリがいるとなると、捕食者放っておくわけがない。
この時もコウモリの周りで数羽の猛禽が虎視眈々とチャンスをうかがっていた。

 そして時折黒い帯に突っ込んでいくと、その足にはかなりの確率でコウモリが・・・

 その猛禽を狙って、EOS−1DMk3の連写音が響く・・・ ん?・・・
 ゴルァ〜!ナンさん!人のカメラで勝手に撮ってんじゃね〜よ!ヽ(`Д´)ノ 

 たいきもすっかりマイカメラとなったFZ−18で熱心に撮影していた。なかなかいいのも撮れてるみたいだね。

 太陽はすっかり西に傾き、コウモリの列は夕陽の地平線の彼方へと延々と続いてゆく。

 しかしこんなにすごい数のコウモリ達、いったいどこへ行くのだろう・・・

 そして太陽が地平線の向こうに沈む頃、さすがに最初の頃より密度は薄くなったものの、
まだ途切れる事のない黒い竜に後ろ髪を引かれつつ、コウモリ洞窟を後にしたのだった。

夕闇せまる帰り道、ピックアップトラックの荷台に座って走っていると、顔にバンバン虫がぶつかってくる。
その数ははんぱじゃなく、口をあけていたらのみこんでしまいそうだ。
こんなにいっぱい虫がいるからあのコウモリ達も生きていけるんだろうな。

 すっかり日もも暮れたころ、途中の村で再びコウモリの大群に遭遇。
黒い影が道路を横切るように飛んでいく。ナンさんの話だとこっちはオオコウモリ系だそうだ。
さっきのコウモリたちの上にさらにこのオオコウモリ、カオヤイの夜空は、きっとコウモリだらけなんだろう・・・

 宿に戻るともうすっかり夜。明日の朝は6時集合で、と約束をして(きっとまた遅刻だろう・・・)ナンさん達と分かれる。

 帰りの車中では、晩ご飯はお昼を食べたジャングルハウスまで行って見ようか、とか言っていたのだが、いざホテルに戻るとなんだか疲れてしまったので、やっぱりいつものレストランで済ませることにした。

 部屋でシャワーを浴びてさっぱりしてからレストランへ行き、まずはシンハで黒い龍に乾杯。

 昼ごはんが遅かったせいか、そんなにお腹も減っていなかったので、僕はフライドライス、ひーこは牛肉炒めの野菜包み、たいきはカオヤイ牛のステーキを注文。フランスパンもサービスしてくれたので、お腹いっぱいだ。

 今晩はトイレットペーパーの予備もあるからトイレも安心だね。それじゃみんな、明日に備えて早く寝よう。

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