タネコマ初遭遇
 翌朝、ちゃんと4時に起きる。2段ベッドなんて子供の頃以来だったけど、寝心地はいまいちでちょっと寝不足だ。

 天気はまあまあ。ちょっと肌寒い空気の中「キョロイン ジー」というアカハラのような声が響き渡っている。これはきっとアカコッコなんだろう。なかなか期待持てそうじゃないか〜!

 駐車場へいくと、今回借りる予定の軽自動車が止まっていた。一見した所中々綺麗だと思ったのだが、近寄っていくと刷毛塗り全塗装済み!なんだかすごいなあ・・・そういえば多少擦っても気にしないでいいですから、と言ってたけどこういうことか(^^;まあかえって気楽で良いけどね。

 前の日言われていたとおり鍵はつけっぱなしになっていたので、ドアを開け、シートに座りオドメーターを見てまたびっくり!走行距離25万キロだってよ。軽ってそんなに持つもんなんだ・・・

 エンジンはとりあえずかかったのでゆっくり走りだしてみたところ、ブレーキもちゃんと効くようだ。これなら大丈夫だろう。まず第一目標のタネコマドリを目指し、昨日教えてもらった林道へ出発!

 町中を抜けしばらくいくと、周りに芝生が広がる池があらわれた。その奥のほうの築山の上を何かが歩いているのが見える。 助手席においてあったロクヨンを構えて覗いてみるとキジだ。奥に椰子の木が見え、なんだか南国っぽいな。

 芝生広場を一回りしてみたが、あとはハクセキレイがいたくらい。さらに先に進むと川沿いの道に突き当たり、そこを上流に向かって登っていくとあたりは鳥の声でいっぱいになった。
 一番多いのが「ジョリジョリジョリ ジョジョビ〜」というメボソムシクイとセンダイムシクイを合わせたようなイイジマムシクイの声。伊豆七島の固有種だ。それに混じって「ヒンカラララララ〜」とお目当てのタネコマの声が聞こえてきた。ただ相手は強敵のコマドリ、声は聞こえても姿を見るのはそう簡単ではないだろう。

 周りは渓流沿いに照葉樹林が広がっている。その中にフェニックス?が群生する畑のような所があったが、これは栽培しているのか自生しているのか?その近くでタネコマが鳴く。車を路肩に寄せてしばらく待ってみることにした。

 しかし鳴いているのは奥の斜面の密集した藪の中みたいだ。これじゃ姿は見つからないだろうなあ。

 と思っていたら手前の木に何が小さい鳥が飛んできた。これはもしや!と思い必死でファインダーに入れると・・・残念、メジロだ。これは固有亜種のシチトウメジロかな?

 しかしちょっと粘ったもののタネコマが手前に出てくる気配はないので諦めて先に進む。

 しばらくいくと道は渓流に突き当たって寸断された。川床は舗装されていて車が渡れるようにはなっていたが、その先も急斜面だし戻れなくなったら困るので、車はここに置いて歩いて鳥探しをすることにする。

 ドアを開けて外に出ると、ここもイイジマムシクイの声がやかましいくらいだった。森の奥からはアカコッコの「キョロン ジ〜」や「ウ〜アウ〜」という獣じみたカラスバトの声も聞こえてくる。そしてタネコマの声も!斜面の上のほう。上流側、川を挟んだ対岸と3羽はいるみたいだ。

 斜面の上のほうで鳴いている個体が一番近そうだが、じっと目を凝らしてもどこにいるのかはよく分からない。まあまだ朝も早いしじっくり行くとするか。

 三脚にロクヨンをセットしてから深呼吸をしてみる。オゾンたっぷりで清清しい。朝露に濡れた道端の葉っぱにはカタツムリが付いていた。

 さあ、それじゃタネコマ捜索開始。まずは上流に向かう小道を遡ってみると滝に突き当たり行き止まりになった。対岸の上のほうからはタネコマの声が聞こえてくる。

 そこで一度車のところに戻り、渓流を渡る事にした。ゴアテックスの靴のおかげで濡れる事もなく対岸に着くと、上流へ向かう急坂と下流へ向かう苔むした林道に分岐していた。

 とりあえずタネコマの声が聞こえる上流へ、辺りをうかがいながら慎重に進んでいくと、岸辺の藪の中で何かが動いている。そしてそこからヒンカラララ〜が!これは捕らえられたかもしれない!と動く影をファインダーに入れるが、藪が入り組んでいてAFは使い物にならない。

 MFでピントを合わせて行くと、そこに浮かび上がったのはタネコマの赤い姿!胸を張って囀っている!目標のタネコマを目の前にして心臓はバクバクだ。だたし葉っぱかぶり、枝かぶりがはなはだしい。あまりに近いのでこちらが動くと逃げてしまいそうだ。もっといいところにでてきてくれ〜!

 しかしその願いは届かず、ファインダーの中のタネコマは一気に対岸の藪に飛んでいってしまった。残念・・・

 まあまだチャンスはあるだろう。次は下流の林道を探してみよう。

 その前に一度車に戻って迷彩ネットをとってくる。いざとなればこれで森にまぎれてじっくり狙うつもりだ。とりあえずポンチョのように体に巻きつけて歩き出すと、すぐ近くからカラスバトの声が聞こえてきた。声のする辺りを透かして見ると、ごそごそ動く大きな姿が目に入った。なんせ密生した照葉樹林、葉っぱかぶりが少ない所を探すのは大変だったが、何とかいいポジションを見つけて撮影。よし、とりあえず八丈島っぽい鳥が撮れた!

 これでちょっと調子が出てきたようで、続いて前方の枝に「ツィ〜」と言う鳴き声と共に中型の鳥が止まった。おお〜っあれはアカコッコ!下調べした感じだとアカコッコは森の中より町中で良く見かけるって書いてあったけど山にもいるんだ。頭が真っ黒でアイリングと嘴の黄色が良く目立つ。お腹のオレンジも鮮やかでなんとも綺麗だ。

 でも今狙ってるのはタネコマ。アカコッコは程々にしてヒンカラの声の所在を確かめるのに専念する。近くで鳴いているんだけどなあ・・・アカヒゲもそうだけど、こうやって囀ってるのは中々見えるところに出てきてくれないんだよな。

 そのうち川沿いと山側の斜面で2羽がヒンカラ合戦を始めた。これはチャンス。こういう時は2羽がバトルしながら開けた所に出てきたりするんだよな。迷彩ネットを被りなおし、草むらに寄り添うように身を隠していると、「ギッ」という警戒音と共にタネコマが林道に出てきた!おお〜今度ははっきり見えるぞ。ISO800でもシャッタースピードは1/15位と薄暗いので慎重にシャッターを切る。よっしゃ。とりあえずタネコマゲット!

胸に黒い帯がないのと嘴の付け根がちょっと黄色いのが特徴だそうだが、ファインダー越しにもそれがよくわかる。

さらにその向こうにももう一羽のタネコマが降りてきた。ここは完全にバトルゾーンになっているようだ。

 しかし闘いがエスカレートする事はなく、2羽はしばらく無言で佇んだ後、それぞれ別の方に飛び去っていった。和解が正立したのかな?見てるこっちもちょっとホッとしちゃったよ。

 とりあえずの撮影成功で肩の荷が下りたが、こうなると欲が出てきて枝どまりも撮りたくなってきた。新たなる出会いを求めて林道をもうちょっと下ってみよう。

 相変わらずイイジマムシクイは良く鳴いていて、さらには飛び回る姿も目に付くようになってきた。とても小さくてメジロくらいあるかないか位が、わりと高いところにある枝先で常に動き回ってくれるので、タネコマなんかよりはるかに見つけやすい。

 メボソやセンダイムシクイに似てる声だと思っていたが、さらにエゾムシクイのような「ヒーツーキー」って声も混じり、ムシクイの声全部入りって感じだ。ここが八丈島だからイイジマムシクイだと思えるが、これが渡りの途中地元の公園とかにいたら絶対識別できないだろうな。

 さっきフェニックスの林でタネコマが囀っていたあたりに差し掛かると、再びタネコマの声が近くで聞こえた。さっきの個体がこっち岸に渡ってきたのかな。声は川岸の藪のあたりから聞こえてくるので再び迷彩ネットを被って身を潜める。
そしてそのまま10分ほど待ち続けると、不意に良く見える枝に飛び乗ってきたタネコマ。

やっぱり待つのは大事だな。

 3匹目のドジョウを狙い調子に乗ってもう少しその場でうずくまっていると、下流のほうから車のエンジン音が聞こえてきた。う〜ん、こんな姿あまり見られたくないぞ、明らかに怪しいもんな・・・

 車は対岸の車道を登ってきているようだ。どうかそのまま行き過ぎてくれ〜、と思いながら気配を消すようにじっとしていると、林道を結構なスピードで登ってくる白い軽自動車の姿が見えてきた。

 そして僕がうずくまっているあたりで突然ぐっとスピードを落としたと思っていたら、わざわざバックしてきて僕の前で止まった。そしてウインドウが下がったかと思うと、中からおばあさんが身を乗り出して、こっちを凝視しはじめた・・・ヤバイ、バレテル・・・しかもあれは明らかに不審なものを見る視線だ・・・別に悪い事はしてないけど非常に気まずいなあ(^^;

  とりあえずおばあさんがいなくなるまでそっぽを向いてじっとしていると、2分ほどでナットクしてくれたのか、そのままUターンして街の方へ戻っていったおばあさん。この迷彩ネットを被った姿がどう見えたのか分からないけど、このあと町で「林道に化け物が出た」なんてうわさにならないと言いのだが(汗)

 こうなるといつまでもここに居続け辛くなってきたので再び鳥を探しながら歩き回り、道に下りているアカコッコを撮影。

時刻は7時半になろうとしている。時間が遅くなるにつれタネコマの活動も鈍くなってくるのか、ヒンカラ声はあまり聞こえなくなってきた。宿に帰る予定時刻は9時と言ってあるので、場所を変えて植物園に移動しよう。

前へ目次次へ

鳥見旅行記トップへ

 

 

inserted by FC2 system